女性医師の婚活:焦らせているわけではないのです
女子医学生・女性医師の婚活(妊活)について書いてきました。女性医師の生涯未婚率は36%なのに対して、男性医師は2.8%。私は、この明らかな数字の差は個人の問題ではなく、社会の問題だと考えている。ただし、決して「はやく結婚しないとダメよ」とか「結婚万歳!」とか、そういうことではないっていう解説を今回はしたいと思います。
2022-05-07

・パーソナル・アイデンティティーの形成年齢
・プロフェッショナル・アイデンティティーとは
・女性医師がハマる罠
・2つが対立する構造:原因は社会と組織であって個人ではない
・自分を見失わないために
・その次に「結婚」があるわけです


・パーソナル・アイデンティティーの形成年齢
パーソナル・アイデンティティーというのは「自分は何者か」「どんな人間なのか」「どういう環境が私自身を形作ったのか」という、何とも壮大で難しいことのように感じるが、実は20歳台である程度確立すると言われている。「私」という人間は、どんなことを大切にしているのか、どんなことに価値を見出しているのか。家庭環境や幼少期〜思春期の経験から時間をかけて形成されるものだ。
医師になると決める時期でもあるので、「病気の人を助ける事」や「医学研究をすること」などに価値を見出している人が読者の中には多いと思う。その他には「お金」に価値を見出すのか、「恋愛・結婚・家庭」に価値を見出すのか。何に・どれだけワクワクするのか、まさに「価値観」と言われるもの。

・プロフェッショナル・アイデンティティーとは
これは読んで字のごとく、医学の専門家としてのアイデンティティー。研修医のうちはまだ未熟で、医師として修練を積んだり、医局で研究したりしてプロ意識や責任感など医師としての自己を確立していく。数年~十年ぐらいかかる。

・女性医師がハマる罠
ストレートで医学部を卒業すると、25歳ぐらいで卒業して研修医になる頃、実は「1人の人間・女性としてのパーソナル・アイデンティティー」は未熟な事が多い。そして卒後いきなり、プロフェッショナル・アイデンティティーの形成に注力させられる過酷な研修医生活が始まる。そこで多くの医師は、「1人の人間・女性としての価値観の形成」を中断してしまう。忙しすぎて、深い思考を自分自身に割くことができないのが理由だけど、真面目な人ほどパーソナル・アイデンティティー形成がゴッソリ抜け落ちてしまう。数年かけてプロフェッショナル・アイデンティティーを確立し、そして卒後10年ぐらいでハッとするのだ。

・2つが対立する構造:原因は社会と組織であって個人ではない
ハッとするのは、おおよそ35歳。そこから(周囲からの声もあって)「結婚したほうがいい」「子どもを早く生まないと」というジェンダー・ステレオタイプに自らを添わせようとして、結婚・妊娠・出産に焦りを感じて、パーソナル・アイデンティティーの形成を再び始めることになる。そして結婚して母になると、今度はプロフェッショナル・アイデンティティーの探求を中断する。
パーソナル・アイデンティティーとプロフェッショナル・アイデンティティーは、実は対立させる必要はないのだけど、思い込みにとらわれると、無意識のうちに自分自身の思考の中で対立させてしまう。「医師として自らの100%を注がないといけない」VS「良い母親は子どもを放ったらかさない」という2項対立だ。本当は、そんな「極論対決」は不要なんだけどね。だって「どっちも、私」なんだから。2項対立させてしまうのは、男性社会の価値観にどっぷり浸かった日本人の無意識バイアスのせい。これは社会と組織のせいで個人のせいではないんだよね。

この現象を研究した日本人の女性医師がいる。松井智子先生の論文、読んでみてね!

 Professional identity formation of female doctors in Japan – gap between the married and unmarried (nih.gov)

・自分自身を見失わないために
パーソナル・アイデンティティーとプロフェッショナル・アイデンティティーの探求を、20歳代の研修医時代から「どっちも、私だ」と思って継続するのがいいと思う。この2つを対立させると、苦しくなるよ。そのためには、病院以外で時間を過ごさないとダメです。私は何が好きなのか?何をしたらワクワクするのか?恋愛?スポーツ?芸術?旅?食事?

YOKO自身は、6年生で結婚して研修医1年目で出産したから、パーソナル・アイデンティティーとプロフェッショナル・アイデンティティーの探求が強制的に同時並行になった。子どもがいると、病院以外での社会とのつながりが生まれ、親として地域社会の中で成長せざるを得ない。

実は私は「子育て」には、あまりワクワク感がなかった。好きな人と暮らす=結婚自体はよかったんだけど、子育ては想像以上に大変で「ああもう嫌だ~」という逃げたい思いの方が強かった。学生時代から海外旅行や短期留学に最高にワクワクする人間だったんだけど、子どもが小さい時、海外旅行や短期留学に一時期行けなくなった。その頃は(25~30歳)、たとえ結婚して子どもが2人生まれて家庭を持っていたとしても、私自身は「自分らしくない」と不満を抱えていた。やっぱり、「私とは何者か」を探求し続ける事って大切なんだ。子どもが少し大きくなってから「留学を諦めたら私じゃなくなる」と、36歳で子ども2人連れて留学に行って、好きな事ができて初めて「自分らしく」あることに「満足」して「幸せ」だった

・その次に「結婚」があるわけです
パーソナル・アイデンティティーが十分確立していなければ、自分が結婚したいのかどうかも分からない。好きな人と家庭を持つことが「自分らしさ」なのかも分からない。分からなければ、社会の固定観念、つまりジェンダー・ステレオタイプにとらわれ、流され、「型通りに生きている安定感」はあるかもしれないけど、「自分らしく、幸せ」ではないかもしれない。つまり結婚すれば全てOKって事じゃない。結婚しようがしまいが「私は何者か」「どんな事が好きなのか・ワクワクするのか」を見つける探求は、仕事と同じぐらい大切なんだよ、って事が言いたかった!

下のポッドキャストはおススメ。松井先生自身が上記論文の内容を解説しています。
「女性医師がハマりやすい経路(罠)」が、はっきりと見えますよ。